11月18日(月)
「ドライビング・レイン」 〜ポール・マッカートニー〜
ポール.マッカートニー2年ぶりニューアルバム。
僕が、まず最初に感じたのは、このアルバムにはコンセプトアルバム(死語?)的な仕上がり感があることだ。それはポール版「ペットサウンズ」であり、ポール版「ジョンの魂」のようでもある。
「ペットサウンズ」は出会いから悲痛な別れまでを切々と綴ったブライアン・ウィルソンの私小説的作品。自閉症的な雰囲気が見え隠れするところがたまらなく素晴らしい、いわずと知れたすべてのロックにおける最高傑作。当のブライアンは「ペット」を作った後で本当の自閉症になってしまい、自らの殻に閉じこもってしまった。
「ドライビング・レイン」はその逆パターンだ。最愛の女性を失った苦しみと孤独から始まり、新たなる希望で終わる。ポールは殻を破って再び僕たちの前に現れた…。
一方「ジョンの魂」はビートルズ解散直後、極度のノイローゼ状態にあったジョン・レノンがプライマリー療法というカウンセリングを受けて完成させた究極のロックアルバム。(ただしジョンもこのアルバム発表後、ブライアンとはちょっと違うけど、やはりお家の中にこもって出てこなくなってしまった)
「ビートルズの死」と「リンダの死」…かけがえのないものを失った直後の二人の精神状態は少なからず近いものがあったのではないだろうか。
オープニング曲の「ロンリー・ロード」はジョンの「マザー」や「ヘルプ」に通じるものがあると思う。
ポールは元来あまりプライベートを曲のテーマにしない。
したとしてもメロディや歌詞が「歌」として完成されすぎていて、「切実なる叫び」としてリアルに聞こえてこないのだ。
要するにジョンのメッセージが繊細で、より一個人に近いのに対して、ポールは
根っからの芸能人というか、精神的にマッチョなのだ。悪く言うと「図太い」のだが…
ジョンの場合は自分の感情を腹からえぐり出すように、ダイレクトに曲に反映させる。
そういったアプローチで作られた代表が先に述べた「マザー」や「ゴッド」であり、「ヘルプ」であったりするのだ。
「ペニーレイン」や「レット・イット・ビー」もポールの実体験や記憶をもとに作られた名曲だが、あくまでも「歌」であって、「こころの叫び」ではない。
そういった意味で「ロンリー・ロード」はジョンっぽい作りだ。
リンダの死によってポールは、まるで道に迷った子供のように「傷つきたくはないよ」「もう独りにはなりたくないよ」と切実に曲の中で叫んでいる。ジョンが「母さん出ていかないで」「誰でもいいから助けてほしい」とかつて叫んだように…。
マッチョなポールがここまで自分の気持ちを吐露したのは、おそらく初めてではないだろうか…。リンダの死を乗り越えることがいかに困難であったのか…そして、この曲のなかには孤独の中でもがき苦しんでいる弱い一個人としてのポールが窺える。
アルバムの前半は多種多様な曲作りとポールの歌い方も変化に富んでいて、聴いていて楽しい。反面、曲の種類に関わらずある種独特の「翳り」「憂い」が感じられ、胸を打つ。この「翳り」は「ラム」や「タッグ・オブ・ウォー」でもなければ、「フレイミング・パイ」のようでもない。21世紀型ポールのオリジナルのような気がする。
やがてアルバム後半になると、その「翳り」がややなりを潜めて、代わりにポールのクリエイティブな「煌めき」の部分が前面に出てくる。カントリー風の「ユア・ウェイ」、「愛するヘザー」は70年代ウイングスを感じさせる。インド風「シャイプールへの旅」、ジャムセッションの「雨粒を洗い流して」(これだけ邦題がそのまんますぎて逆に無理がある…)は「フレイミング・パイ」でも同じようなことをやっていたが、本作の方がよりロックしていて、パワフルである。
このようにアルバム後半では様々な音楽的ファクターを通して、ポールズ・マジカル・ワールドが、音楽を作る喜びを謳いあげるかの如く一気に花開く。リンダの死を乗り越え、ヘザーとの出会いを経て、再び「ロック」に戻っていくマッチョ・ポールの意気込みが十分に伝わってくるのだ。
「孤独」「癒し」「再生」「希望」みたいな言葉が曲を聴き進めるうちに心の中に自然と浮かんでくる。
このあたりが「ペット」の逆再生アルバム、コンセプトアルバムと感じた所以だ。
レコーディングはアメリカで5週間という短期間で行われたそうだ。
居合い切りのような気合いで一気に描き上げた水墨画と、時間をかけてじっくりと描き込まれた油彩画のイメージを両方を兼ね備えたアルバム…
とにかくジョンに聞かせたい…。ジョンならどう言うだろうか?
「まあ“パイプス・オブ・ピース”よりはいいことは確かだな…」てな感じかな…。
ラストの「フリーダム」は、いい曲だが、やはりアルバムのなかでこの曲だけが浮いてしまっている。別に無理して入れることもなかったと思う。(アルバムのセールスには大きく関わってくるだろうが…)
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